大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 平成5年(ワ)912号 判決 1995年12月22日

原告

株式会社昇工業 (X)

右代表者代表取締役

久保田進

右訴訟代理人弁護士

今井征夫

同復代理人弁護士

草薙順一

被告

愛媛県(Y)

右代表者知事

伊賀貞雪

右訴訟代理人弁護士

米田功

右指定代理人 同

岡本靖

吉川毅

藤田富男

重見直生

前田修吾

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は原告に対し、金九七二七万三二〇〇円、及びこれに対する平成六年一月一五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、産業廃棄物の収集・運搬等を目的とする原告会社が、平成二年一二月二一日愛媛県知事に対し、産業廃棄物処理業(収集・運搬)の許可申請をしたところ、愛媛県知事が、平成三年一一月二四日まで右申請に対する許可・不許可の行政処分をせず、同月二五日になって初めて不許可処分をしたため、原告が被告愛媛県に対し、国家賠償法一条一項に基づき、愛媛県知事が長期間にわたり許可・不許可の行政処分をしなかったことの違法、及び右不許可処分をしたことの違法を主張して、右不作為及び不許可処分により被ったと主張する損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件許可申請

原告は、産業廃棄物の収集・運搬等を目的とする首都圏に本社のある株式会社であり、平成二年秋頃、首都圏から排出される安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、金属くず、建設廃材)を、横浜市神奈川区鈴繁町所在の横浜港から愛媛県越智郡菊間町所在の菊間港まで船舶で運搬し、同港において陸揚げ後、最終処分業者である城東開発株式会社(以下「城東開発」という。)に最終処分を委託し、城東開発が同社所有の松山市小野町所在の最終処分場(以下「城東開発処分場」という。)において、右産業廃棄物の埋立処分をする事業計画を立案した。

そこで、原告は平成二年一一月上旬愛媛県知事に対し、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四五年法律第一三七号、平成三年法律第九五号による改正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)一四条一項に基づいて、愛媛県内で産業廃棄物の運搬を行うための県知事の許可を求める申請書類を提出し、右許可申請は、同年一二月二一日今治中央保健所受付第三五二号として、正式に受理された(以下、この申請を「本件許可申請」又は「本件申請」という。)。

2  本件不作為及び本件不許可処分

ところが、愛媛県知事は、平成二年一二月二一日から平成三年一一月一一四日まで、本件許可申請に対する許可・不許可の行政処分を行わず(以下、この間の不作為を「本件不作為」という。)、同年一一月二五日になって原告に対し、本件許可申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)を行った。

二  原告の主張

1  本件不許可処分の違法性

本件許可申請は廃棄物処理法一四条二項各号の要件を備えているのに、愛媛県知事は、それが右各号いずれも要件も具備していないと判断して、本件不許可処分をしており、本件不許可処分は違法である。

2  本件不作為の違法性

(一) 第一次的主張―平成三年二月一日から違法

本件許可申請のような行政庁による許認可実務は、申請者が処分庁に申請書類を提出しても、それにより直ちに申請の受理がされる扱いはされておらず、引続き申請者と処分庁側との間で申請内容及び一件書類について事前協議が行われ、申請について不備があればそれについての補正・変更等を行い、問題がなくなった時点で、初めて処分庁により正式に受理される扱いとなっている。このように、申請の正式受理は、処分庁側が申請について問題がないと認めた段階でされるため、一般に申請の受理は申請の許可を意味するものとなっている。そして、申請受理後は、その後の事務処理に一定の時間を要するが、概ね受理後一か月で許可が下りるのが通例である。したがって、本件許可申請においても、通常の行政慣行に従えば、本件許可申請が受理された平成二年一二月二一日から一か月後の平成三年一月二一日までには、本件申請に対する許可処分がなされるはずであった。

原告代表者が平成三年一月一〇日ころ、本件許可申請の担当部課である愛媛県保健環境部環境保全課に、本件許可申請の処理状況について問い合わせたところ、同課職員(以下「環境保全課職員」という。)は、城東開発処分場の整備が未了であることを、処分留保の理由として挙げた。しかし、原告が本件許可申請において求めたのは、産業廃棄物の収集・運搬についての許可であり、審査対象は右の範囲に限られるのであって、最終処分業者の状況は本件許可申請とは無関係である。仮に、城東開発の業務内容に問題があったとしても、これを理由に本件許可申請に対する処分を遅らせたり、不許可の理由となしうるものではない。そして、環境保全課職員の右発言からすると、原告の本件許可申請自体には問題がなかったことが明らかである。

したがって、愛媛県知事は、本件許可申請の正式受理から事務処理に必要な一か月以上の期間を経過した平成三年二月一日以降は、正当な理由なく行政処分を遅延したものであって、このような本件不作為は違法である。

(二) 第二次的主張―平成三年三月一日から違法

本件において、産業廃棄物の最終処分を担当する予定であった城東開発は、原告の事業計画に伴い一時保管積替施設の新設が必要となり、廃棄物処理法一四条五項に基づき、愛媛県知事に対し産業廃棄物処理業の事業の範囲の変更許可申請をしていた。しかし、城東開発は、平成三年二月中に愛媛県知事の指導に従い、右申請を取下げている。愛媛県知事は、城東開発の最終処分場の整備未了を理由として、本件許可申請に対する許可処分を留保していたのであるが、城東開発による一時保管積替施設の新設を目的とする事業の範囲の変更許可申請が取下げられたのであれば、もはや城東開発は原告の事業とは無関係であるから、城東開発側の事情を理由に、本件許可申請に対する処分は留保できないはずである。したがって、城東開発が右変更許可申請を取下げた後である平成三年三月一日以降は本件不作為に正当な理由がなく、同日以降の本件不作為は違法である。

(三) 第三次的主張―平成三年六月一日から違法

城東開発は平成三年四月中には、城東開発処分場について、環境保全課職員から指摘を受けた問題点をすべて改善した。したがって、環境保全課職員が本件不作為の理由として問題にした「城東開発側の受入れ態勢不備」の点は、これ以後はもはや本件不作為の理由とはならず、環境保全課職員も、平成三年四月ころ城東開発に対し、本件申請に対する許可は同年五月二〇日ころである旨を伝えている。しかるに、愛媛県知事(環境保全課職員)は、平成三年五月二〇日を経過しても本件申請に対する許可をせず、原告に対し本件許可申請の取下げを求め始めた。これは何ら理由がない行為であって、少なくとも、環境保全課職員が目安として示した平成三年五月二〇日から一〇日以上経過した平成三年六月一日以降の本件不作為は、何らの正当理由なく違法である。

(四) 第四次的主張―平成三年七月二七日から違法

愛媛県知事が本件申請に対する許可をしないため、原告は代理人の今井征夫弁護士を通じ愛媛県知事に対し、平成三年七月一一日に催告後二週間以内(同月二六日まで)に何らかの行政処分を行うよう求める文書を被告に送付し、かつ、同月二三日にも再度同月二六日までに行政処分を行うことを求める文書を送付した。しかるに、愛媛県知事は何らの理由も示さないまま、右催告期限までに本件申請に対する許可処分をしなかったのであり、右催告期限後である平成三年七月二七日以降の本件不作為は、正当理由なく違法である。

3  原告の損害

(一) 原告は、本件申請を許可してもらうためには、産業廃棄物の積出地である横浜港の埠頭使用権が確保されていることが前提であったため、従前、横浜港の鈴繁埠頭を利用して行っていた香川県への産業廃棄物運搬事業が終了した平成三年三月一日以降も、鈴繁埠頭を継続して賃借し、賃借料の支払を続けていた。そして、原告は、本件不許可処分後も不許可処分取消訴訟を提起しており、取消判決後に許可を得るためには、やはり埠頭使用権の確保が必要であったため、本件不許可処分のなされた平成三年一一月二五日以降も、鈴繁埠頭の賃借を続けざるを得なかった。

結局、原告は、香川県への運搬事業が終了した平成三年三月一日から愛媛県への運搬事業を断念した平成四年八月末まで、鈴繁埠頭の賃借料を支払ったのであるが、これら賃借料の事業収益による回収は、本件不作為及び本件不許可処分により不能と帰したのであり、これら支払済賃借料は、本件不作為及び本件不許可処分により原告が被った損害である。

(二) 原告が鈴繁埠頭の賃借料を支払い続けたことによる損害を、前記第一次的主張から第四次的主張までに分けて示すと、以下のとおりである。

(1) 第一次及び第二次的主張

・損害期間は平成三年三月一日から平成四年八月末まで

・埠頭使用料は、平成三年三月から平成四年二月まで及び同年六月は月額六〇〇万円、平成四年三月から五月まで及び同年七月・八月は月額三〇〇万円

・岸壁清掃料金は月額八万円

・以上合計九七二七万三二〇〇円(消費税を含む。)

(2) 第三次的主張

・損害期間は平成三年六月一日から平成四年八月末まで

・埠頭使用料、岸壁清掃料金は前記(1)と同旨

・以上合計七八四八万六〇〇〇円(消費税含む。)

(3) 第四次的主張

・損害期間は平成三年八月一日から平成四年八月末まで

・埠頭使用料、岸壁清掃料金は前記(1)と同旨

・以上合計六五九六万一二〇〇円(消費税含む。)

三  被告の反論

1  本件不許可処分の適法性

産業廃棄物の運搬を業として行おうとする者は、(一)運搬船等の運搬施設を保有し、かつ、産業廃棄物の運搬を的確に遂行するに足る能力を備えていること(廃棄物処理法一四条二項一号、同法施行規則一〇条一号イ・ハ)、及び(二)「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当しないこと(廃棄物処理法一四条二項二号、七条二項四号ハ)の各要件を充たす必要があるところ、原告は以下に述べるとおりいずれの要件も欠く者であり、本件不許可処分は何ら違法なものではない。

(一) 運搬施設」及び「運搬能力」の不備

廃棄物処理法一四条七項が、産業廃棄物運搬業の許可を得た業者が、第三者に産業廃棄物運搬の再委託をすることを禁止している趣旨に鑑みると、ある業者が「運搬施設」を保有して「運搬能力」を備えていると言うためには、運搬船等産業廃棄物を自ら運搬する手段を所有して自ら運行するか、又は運搬船を借り上げて自ら運行することを必要とする。そして、船舶を借り上げて運搬する場合において、傭船者が自らその船舶を運行していると言えるためには、傭船者自らが乗組船員を任命・雇用し、それに対する指揮監督権限を有する場合でなければならない。

しかるに、原告が実際に予定していた運搬形態は、海運会社に産業廃棄物の運搬を依頼し、当該海運会社所属の船員が船舶を運行して産業廃棄物の海上輸送を行うものであり、原告には船長以下の乗組員に対する指揮監督権限がなかった。したがって、これはまさしく、廃棄物処理法が禁止する第三者への産業廃棄物運搬の再委託に他ならず、原告は「運搬施設」を保有し「運搬能力」を備えたものとは認められない。

(二) 「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当

原告は、予定していた船舶運航形態や船員使用形態からして、原告・海運会社間の船舶借り上げ契約の実態が裸傭船契約ではないのに、本件許可申請書には裸傭船契約の契約書を添付していたこと、過去にも、香川県への産業廃棄物の運搬にあたって同様の方法で許可を得た上、実際には、産業廃棄物運搬の再委託に当たる疑いが濃厚な形態で運搬を行っていたこと、原告の本店住所及び事務所の移転に伴う変更の届出等を怠っていたことに照らすと、原告は、廃棄物処理法七条二項四号ハの「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当する。

2  本件不作為の適法性

(一) 第一次・第二次的主張について

許認可実務において、原告が主張するような、申請の受理が申請の許可を意味すると言った行政慣行は存しない。

城東開発は本件許可申請当時、城東開発処分場において、木くずや廃プラスチック類の野焼き行為及びその燃えがらの埋立処分行為を行っていた。城東開発処分場は埋立地からの浸出液の処理施設を持たない安定型処分場であり、城東開発による前記野焼き行為や埋立処分行為は、このような安定型処分場では行ってはならない違法行為であった。そこで、環境保全課職員は、本件許可申請に関しては、最終処分業者である城東開発の違法行為を是正することが先決であり、前述のような違法行為がある状態で県外産業廃棄物を搬入しようとすることなど論外である旨、申請代理人の有限会社光測量設計事務所代表者の松本光正に申し渡し、本件許可申請を取下げるよう指導した。したがって、愛媛県知事は、県民の生活環境・衛生環境保全の見地から、本件許可申請に対する処分を留保し、城東開発への是正指導を行うとともに、本件許可申請の取下げ指導を行っていたものであって、そのこと自体は適法である。

確かに、行政指導は、相手方の任意の協力が前提であるから、相手方において、真摯かつ明確に当該行政指導に従う意思のないことを表明した場合には、その後もなお行政指導を理由に申請に対する処分を留保するのは違法と言える。しかし、原告申請代理人の松本光正は環境保全課職員に対し、城東開発の問題が解決するまでいつまでも待機する旨応答して、環境保全課職員による城東開発に対する是正指導に協力する態度を示し、城東開発の問題による本件許可申請の処分留保を容認していた。そして、城東開発の違法行為の問題は、平成三年四月上旬まで解決しなかった以上、平成三年四月まで愛媛県知事が本件許可申請に対する処分を留保したことに違法はない。

(二) 第三次的主張について

城東開発の違法行為は、平成三年四月に至りようやく一応の改善をみた。しかし、そのころ、産業廃棄物の都道府県区域を越えた広域移動とその不適正処理が社会問題化し、四国圏内でも、香川県及び高知県は、県外産業廃棄物の県内搬入を原則禁止する方針を打ち出した。そのため、愛媛県知事(環境保全課職員)も、城東開発の問題が解決した後も、県民の生活環境の保全及び公衆衛生の向上のため、本件許可申請についても、引き続き取下げ指導を行うことになった。そもそも、地方公共団体には、地方公共の秩序維持・環境保全の責務が課せられている以上、右責務を全うするため、行政指導に対する協力を求めて、相手方を粘り強く説得を試みることは許されるべきである。したがつて、行政指導の相手方について、未だ説得による翻意の可能性が認められる場合には、暫時行政指導を継続し、その間申請に対する処分を留保することも正当と認められる。

しかも、本件においては、城東開発による産業廃棄物処理業の変更許可申請が、平成三年四月三日に取り下げられており、この時点において、原告の事業計画実現の見込みは非常に低くなっていたので、この点においても、愛媛県知事(環境保全課職員)の取下げ指導には客観的根拠があり、かつ、少なくとも、平成三年七月一二日に今井征夫弁護士から右行政指導には従わない旨の通告を受け取るまでは、原告から愛媛県知事に対し、取下げ指導には従わない旨の明確かつ真摯な意思表示はされていなかった。

したがって、愛媛県知事(環境保全課職員)は、通告を受け取るまでは、未だ説得による翻意の余地があるものと判断して、取下げ指導を継続していたものであり、これは許される行政指導の範囲に含まれるものであって、平成三年七月一二日までの行政指導継続による処分留保には違法性がない。

(三) 第四次的主張について

愛媛県知事(環境保全課職員)は、今井征夫弁護士から通告を受けた後は、もはや原告に対する取下げ指導は断念せざるを得ず、本件許可申請に対する実質審査を行った。すなわち、環境保全課職員は、原告の「運搬能力」について調査するとともに、原告が行っていた香川県への産業廃棄物運搬の実態、及び原告会社事務所の所在地等について調査し、その結果、本件許可申請は法定の要件を欠くものであることが判明したので、愛媛県知事は平成三年一一月二五日本件不許可処分をした。

ところで、今井征夫弁護士の通告から本件不許可処分までに約四か月を要しているが、本件許可申請は、県外業者が首都圏からの大量の産業廃棄物を搬入しようとした初めての事例であったので、当然それに対しては慎重かつ綿密な調査が必要であった。このことから、審査期間が通常より長い四か月余りが必要となったが、審査に時間を要したことに合理性があり、本件不許可処分が平成三年一一月二五日になされたことについても、何ら違法な点はない。

3  原告主張の損害について

(一) 法律上保護の対象となる権利又は法的利益の侵害について

許可申請書の受理は、行政庁が適法な申請と認めて受け付ける行為であり、これによって、行政庁には、その申請に対し許可・不許可の行政処分を行う義務が生じるに過ぎず、許可申請書が受理されても、必ず許可になるわけではない。しかるに、原告は、本件許可申請が受理されたことは、申請の許可を意味するとの誤った認識に基づいて、許可になる前から鈴繁埠頭を賃借していても、その賃借料は後に回収可能であるとの計算をしたうえで、自らの経営判断により、先行投資として鈴繁埠頭の賃借を継続したのである。このような原告が、愛媛県知事が本件不許可処分を行ったことにより、又はその審査期間が原告が考えていたよりも長かったことにより、当該費用を回収できなくなり、そのため経済的損失を被ったとしても、それは期待利益の反射的な喪失に過ぎないから、これをもって、法律上保護の対象となる権利又は法的利益の侵害があったものとは認められず、被告には損害賠償義務はない。

(二) 相当因果関係について

鈴繁埠頭は、本件許可申請にかかる運搬のみでなく、他の処分場への産業廃棄物の積出しにも利用できたものであり、鈴繁埠頭を有効に利用すれば、原告の主張するような損害は発生しなかったのであるから、本件不作為又は不許可処分と原告主張の損害発生との間には、相当因果関係がない。特に、城東開発が事業の範囲の変更許可申請を取り下げた平成三年四月三日以降は、原告の事業計画は不可能に近い状態になっており、鈴繁埠頭の賃借を続けることに何ら意味はなかったにもかかわらず、原告が自らの責任で賃借を続けたのであるから、事実的因果関係もないと言うべきである。

仮に、原告主張の損害が、本件不作為又は不許可処分と関係のある損害であるとしても、そもそも、賃借料の負担が生じたのは、原告が本件不許可処分前から鈴繁埠頭を賃借していたこと、及び原告がその使用権を有効に活用しなかったことによるものである。これは、本件不作為又は不許可処分から通常生ずる損害とは言えず、特別の事情により発生した損害である。すなわち、愛媛県知事(環境保全課職員)が、原告による鈴繁埠頭借り上げの事実を知ったのは、今井征夫弁護士からの二度目の催告書を受け取った平成三年七月二四日の時点であり、通常許可処分が下りる以前に事業開始の準備をすることは考えられないので、愛媛県知事には、このような事情に対する予見可能性はない。

四  争点

1  本件不許可処分が違法であるか否か。

2  本件不作為が違法であるか否か。

3  原告主張の損害について

(一) 法律上保護の対象となる権利又は法的利益の侵害と認められるか否か。

(二) 本件不作為又は不許可処分と相当因果関係のある損害と認められるか否か。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件不許可処分の違法性)について

1  廃棄物処理法一四条二項一号の要件について

(一) 廃棄物処理法一四条二項は、都道府県知事が行う産業廃棄物処理業の許可要件として、同一号において、「その事業の用に供する施設及び申請者の能力が、厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること。」との要件を掲げ、これを受けて、同法施行規則一〇条一号は、「イ 産業廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬船、運搬容器その他の運搬施設」、「ハ 産業廃棄物の収集又は運搬を的確に遂行するに足りる能力」が必要であると規定している。

更に、廃棄物処理法一四条七項は、都道府県知事から産業廃棄物の収集運搬の許可を受けた者は、産業廃棄物の収集運搬を他人に委託してはならないと定め、産業廃棄物処理業者の第三者に対する産業廃棄物運搬の再委託を禁止している。これは、このような再委託が行われると、法定の要件を満たすと認められた特定の業者に対して許可を与えるという、産業廃棄物処理業の許可制度の趣旨を没却するものであるとともに、産業廃棄物の処理についての責任の所在を不明確にし、不法投棄等の不適正処理を誘発するおそれがあることなどによる。

したがって、廃棄物処理法一四条二項の規定に基づき産業廃棄物の収集運搬業の許可を受けるには、許可申請者自らが的確に産業廃棄物の運搬を遂行することができる能力を有することが必要であり、産業廃棄物の収集運搬の基準に合致する処理を行うことができる「運搬施設」(廃棄物処理法施行規則一〇条一号イ)を保有し、かつ、運搬施設を実際に稼働させて、産業廃棄物の収集運搬を的確に遂行できる「運搬能力」(同法施行規則一〇条一号ハ)を備えるか、又は許可申請者が自ら運搬施設(運搬船)を所有していない場合には、許可申請者が産業廃棄物を運搬する手段(船舶)を第三者から借り上げて、自らが的確に運搬を遂行できる能力を有する者であることを必要とする。そして、後者の場合に、第三者ではなく許可申請者自らが運搬を遂行できる能力を有すると言えるためには、当該船舶を稼働させる船長以下の船員を、契約により申請者自らが自己の指揮監督による支配下に置いていること、すなわち、船長以下の船員に対し、積荷の配送先や積卸し等の商事事項に関する指図権を有するだけでなく、任免権又はこれに準ずる船長・船員の任免・変更請求権を有することが必要と解すべきである。けだし、このような権限を有しなければ、指揮監督の実効性がなく、運搬に関する責任の所在も不明確となるおそれがあり、許可申請者が、自ら運搬施設(運搬船)を保有し、継続的にこれを稼働させて的確に運行する能力を有するとは認め難く、産業廃棄物の船舶による運搬について、廃棄物処理法が禁止している第三者(海運会社)に対する産業廃棄物運搬の再委託に当たるおそれがあるからである。

したがって、許可申請者が第三者保有の船舶を利用して産業廃棄物を運搬する場合に、廃棄物処理法施行規則一〇条一号イ所定の「運搬施設」を有し、同ハ所定の「運搬能力」を備えるものと言うためには、船舶自体を賃借して船舶の運行に必要な船長・船員を自ら任免する裸傭船契約を締結するか、又は、一定期間、船員付で船舶を借り切り、産業廃棄物の積込みから積卸しまでの運搬の過程において、海技事項(この点については、船主が船長を通じて指揮監督する。)以外の事項につき、船長以下の船員を指揮監督することができる内容の定期傭船契約を締結する必要があると言わねばならない。

(二) これを本件について見るに、〔証拠略〕によると、以下の各事実が認められる。

(1) 本件許可申請書(〔証拠略〕)には、バージ一〇号(阪部海運有限会社所有)及びバージ山陽三号(住吉海運有限会社所有)に産業廃棄物を搭載し、これを住吉丸(住吉海運有限会社所有)及び第一八栄進丸(真鉄汽船有限会社所有)が押して、横浜港から愛媛県菊間港まで運航する旨が記載され、申請書添付の原告と海運会社間の裸傭船契約書では、その第七条において、船員の任免及び指揮・監督は傭船者側(原告側)が行うと記載され、また、右申請書には、原告が任免するという船員の名簿も添付されていた。

(2) しかし、実際に船舶に乗り込む船員は、本件許可申請書添付の船員名簿に記載された船員とは全く別の船員であり、しかも傭船者側(原告側)が任命する船員ではなく、住吉丸は住吉海運有限会社の船員が、第一八栄進丸は阪部海運有限会社の船員が、それぞれ船舶に乗船して運航することを予定していた。しかも、本件許可申請当時、住吉丸は、住吉海運有限会社からくろかず海運有限会社に定期傭船に供され、第一八栄進丸は、真鉄汽船有限会社から藤栄海運有限会社に裸傭船に供され、バージ山陽三号も、住吉海運有限会社からくろかず海運有限会社に運行が委託されており、原告が右船舶等を確実に傭船できるかについても問題があった。

(3) 原告は、平成元年四月頃から平成三年二月頃までの間、横浜港から香川県小豆郡土庄町豊島の港まで、産業廃棄物の海上輸送を行っていたが、その運搬実態は、次のようなものであった。

<1> 原告から依頼された海運会社の船員が、積出港(横浜港)から積卸港(香川県豊島港)まで産業廃棄物を海上輸送し、かつ、航海中は、原告従業員は乗船せず、船長以下の船員が積荷の産業廃棄物を管理する。その間、原告と船長以下の船員は、船舶に設置された無線電話により連絡をとることはできたが、実際に無線電話により連絡を取り合った事実はなかった。

<2> 積卸港では、原告と業務提携をしている産業廃棄物処理業者(日本海洋開発株式会社)の従業員が産業廃棄物を引き取りに来ていて、日本海洋開発の従業員が産業廃棄物の荷卸しをした。このときにも、原告の従業員は立ち会わず、荷卸しの際には日本海洋開発の従業員が産業廃棄物の数量を確認し、船長に受取りの証明文書を渡し、この証明文書に基づき、原告が海運会社に対し、運搬した産業廃棄物の数量に応じて、傭船料名目の金員を支払っていた。

<3> 原告が依頼した船舶に乗り込んでいた船員は、海運会社と雇用契約を締結していた船員であり、原告とこれら船員との間には雇用契約は存在せず、原告はこれら船員に対する任命権や指揮監督権もなく、海運会社が乗組員の選任を行っていた。乗組員の給料及び船員保険の保険料のうち船舶所有者負担分は、海運会社が支払っていた。

<4> 事故が発生して船に損害があった場合や、産業廃棄物が流失して第三者に損害を与えた場合に、その損害を担保するような保険の保険料も海運会社が支払い、船の燃料代、検査費用、修繕費用、運航及び船員に関する諸費用も、海運会社が負担していた。

(三) 以上から明らかなように、原告は、本件許可申請書には、実際の乗組員と異なる船員名簿を添付しており、右船員名簿に記載された船員が、原告の借り上げ予定船舶に乗船することは不可能であった上、借り上げ予定船舶も、本件許可申請当時、原告以外の第三者に傭船もしくは運行委託に供されていたことからすると、原告が、横浜港から愛媛県菊間港まで産業廃棄物を船舶で運搬するに当たり、当該船舶の船長以下の船員を自己の指揮監督による支配下に置き、自ら船舶を的確に運行することを予定していたかについては、重大な疑問がある。

しかも、原告は、本件許可申請以前から、横浜港より香川県豊島港まで産業廃棄物の海上輸送をしていたが、その運搬形態は、前示したところに照らすと、産業廃棄物処理業の許可を得ていない海運会社に対する産業廃棄物の運搬委託と同視しうる形態と言え、廃棄物処理法一四条七項で禁止されている産業廃棄物運搬の再委託の疑いが濃厚であるところ、〔証拠略〕によると、原告は、本件許可申請に係る横浜港から愛媛県菊間港までの産業廃棄物の海上輸送についてもへ横浜港から香川県豊島港までの産業廃棄物の海上輸送と同様の方法を予定していたことが認められる。

以上によると、原告は、横浜港から愛媛県菊間港まで産業廃棄物を運搬するについては、海運会社に依頼して産業廃棄物を船舶で海上輸送することを予定していたが、船長以下の船員を自己の指揮監督による支配下に置いて、自ら船舶を的確に運行することは考えておらず、その海上運搬の実態は裸傭船契約や定期傭船契約によるものではなく、廃棄物処理法一四条七項で禁止されている産業廃棄物運搬の再委託に当たる疑いが濃厚であるにもかかわらず、早期に産業廃棄物処理業(収集運搬)の許可を得るため、そのような実体を秘して、書類上だけ形式を整えて裸傭船契約書を添付し、本件許可申請をしたものと認められ、本件許可申請については、原告が廃棄物処理法一四条二項一号、同法施行規則一〇条一号イ・ハ所定の「運搬施設」「運搬能力」の要件を充たすものとは認められない。

2  廃棄物処理法七条二項四号ハの該当性について

(一) 廃棄物処理法一四条二項二号は、産業廃棄物処理業の許可要件として、「申請者が、七条二項四号イないしハのいずれにも該当しないこと」を定めているところ、同法七条二項四号イないしハの趣旨は、産業廃棄物の処理が公衆の衛生と人の健康に関わるものであることから、産業廃棄物の処理全般の過程において、その処理に従事する業者の資質を一定の水準に保つことにより、不法投棄等の違法・不適正な処理を防止するとともに、将来の適正な処理に支障をきたすことがないよう、廃棄物処理法に従い適正に業務を運営・継続する姿勢のある産業廃棄物処理業者を育成することにあり、右規定は、産業廃棄物処理業者に対し、自己の経営責任のもとに利潤を追求するという姿勢だけでなく、その公共的性質に見合った姿勢・資質を要請しているものとみることができる。

そして、廃棄物処理法七条二項四号ハ所定の「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」の解釈にあたっては、(1)一部の悪質な産業廃棄物処理業者が、収集した産業廃棄物を山林・原野・河川・海岸・海洋等に不法投棄して、かけがえのないわが国の国土・自然・環境を破壊しており、しかも一旦大規模な不法投棄がなされてしまうと、原状回復を図るのが極めて困難であることから、現在重大な社会問題となっている実情や、(2)産業廃棄物処理業を営利事業としてみた場合、事業の規模自体は小さくても、短期間に多大な収益をあげることが可能であり、また、一旦不正行為をしても、新たな会社を設立するなどの方法により、実質的に責任を免れることが容易であること、(3)更には、一部の悪質な業者による産業廃棄物の不正処理が、産業廃棄物処理業界全体に対する不信・反発を招き、ひいては産業廃棄物の適正処理に困難をきたすおそれがあること、などを踏まえて判断する必要がある。

以上の諸点を総合して考察すると、「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」という要件については、殊更に厳格に解釈するのは相当でなく、申請者に産業廃棄物処理業の許可を与えれば、将来、その業務に関して不正又は不誠実な行為をすることが、相当程度の蓋然性をもって予想される場合をいうものと解するのが相当である。

(二) そこで、かかる見地から、原告が廃棄物処理法七条二項四号ハに該当する者であるか否かについて、以下考察する。

原告は、平成元年四月頃から平成三年二月頃にかけて、横浜港から香川県豊島港まで、産業廃棄物の海上運搬を行っていたが、これは、原告には船長以下の船員に対する指揮・監督権もないままに、海運会社に対し産業廃棄物の海上運搬を委託していたものであり、その運搬形態は、原告が船長以下の船員を自己の指揮監督による支配下に置いて、自らが船舶を的確に運行していたという形態とは程遠く、廃棄物処理法一四条七項で禁止されている産業廃棄物運搬の再委託の疑いが濃厚であった。すなわち、原告は、本件許可申請をした平成二年一二月当時、廃棄物処理法に違反するのではないかと疑われるような方法で、産業廃棄物の処理業務(海上運搬)を行っていたのである。

原告は、本件許可申請においては、運搬施設として海運会社所有の船舶を借り上げ、自らこれを運行するものとして、原告と海運会社との間で締結した裸傭船契約書、及びこれを証するための船員名簿を提出していたが、実際は、裸傭船契約の実態がないのに、裸傭船契約書を添付していたのであり、また、船舶には当該船舶を所有する海運会社の船員が乗り込むことになっていたのに、これとは全く別の船員名が記載された船舶名簿を本件許可申請書に添付していたのである。

原告代表者は、これまでの許可権者による行政指導により、裸傭船契約により借り上げ船舶を自ら運行するのでなければ、産業廃棄物処理業の許可を受けるのが困難な実情を認識しており(〔証拠略〕)、それゆえ、本件許可申請に際しても、裸傭船契約により船舶のみを借り上げ、自らが船員を任用して船舶を運行するかのように書類上仮装して、前述の如き裸傭船契約書、及びこれを証するための虚偽の船員名簿を申請書に添付していたのである。

そして、原告が本件許可申請において予定していた運搬方法も、先の横浜港から香川県豊島港までの産業廃棄物の海上輸送と同一形態であって、廃棄物処理法一四条七項で禁止されている産業廃棄物運搬の再委託である、と疑われるような運搬形態を予定していた。

(三) 以上によると、原告は、本件許可申請に際し、被告を騙して本件許可を得ようと企て、虚偽の事項を記載した申請書類を被告に提出していたのであり、かかる原告の態度は、産業廃棄物処理業者としての基本的な資質、適格性を疑わせるものといわざるを得ない。

したがって、原告に本件許可を与えた場合、将来、横浜港から愛媛県菊間港までの産業廃棄物の海上運搬業務に関して、不正又は不誠実な行為をすることが、相当程度の蓋然性をもって予想されるということができ、原告は、廃棄物処理法七条二項四号ハが規定する、「その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するものと認められる。

3  小括

以上から明らかなように、本件許可申請は、その要件である廃棄物処理法一四条二項各号に定める要件をいずれも充たさないものであり、本件不許可処分は適法であると認められる。

二  争点2(本件不作為の違法性)について

1  平成三年四月五日までの本件不作為について

(一) 本件許可申請について

〔証拠略〕によると、以下の各事実を認めることができる。

(1) 城東開発の溝田部長が、平成二年七月一三日愛媛県庁に出向き、環境保全課職員に対し、首都圏の産業廃棄物処理業者と提携して、首都圏で排出・収集された産業廃棄物を城東開発処分場に搬入して、処理したい旨の相談を持ち掛けた。右事業計画実現のためには、首都圏の産業廃棄物処理業者(平成二年秋頃原告に決定)については、愛媛県知事から産業廃棄物処理業(収集・運搬)の許可(廃棄物処理法一四条一項)を得ることが必要であり、城東開発についても、一時保管地における保管行為の追加、及び収集運搬品目の追加等を内容とする、産業廃棄物処理業の変更許可(廃棄物処理法一四条五項)が必要であった。

(2) ところで、当時は、愛媛県内業者による大量の県外産業廃棄物の受入れが愛媛県内で問題化し、愛媛県議会でもこの問題が度々取り上げられており、愛媛県知事(環境保全課職員)も、県外産業廃棄物の受入れの自粛に努めるよう指導を行っている最中であり、また、千葉県や東北地方においても、首都圏から搬入される大量の産業廃棄物による最終処分場の周辺環境の汚染が、社会問題化していた。そのため、環境保全課職員は、溝田部長からの相談に対しては、県外からの産業廃棄物の搬入については、県民感情などの問題もあって極めて困難な状況にあり、即答はできないため検討して回答する旨伝えた。

(3) 環境保全課職員は、城東開発については、それまでに地元住民から、産業廃棄物を搬入するトラックから産業廃棄物が道路等に飛散する、といった苦情を受けていたこともあって、とりあえず城東開発処分場の立入調査を実施することになった。そこで、環境保全課職員が、平成二年七月二〇日城東開発処分場の立入調査をしたところ、城東開発処分場では、廃プラスチック類、木屑等が焼却炉を用いないで大量に焼却され、その燃えがらが埋立処分されており、城東開発が、廃棄物処理法に違反する違法な「野焼き」「埋立処分」行為を行っていた(〔証拠略〕)。そのため、環境保全課職員は、翌二一日溝田部長を県庁に呼び出し、溝田部長に対し、違法な野焼き及び埋立処分行為の即時中止を申し入れ、このような違法行為が行われている状況では、県外産業廃棄物の受入れなど論外である旨申し渡した。

(4) ところが、愛媛県議会議員及び松山市議会議員が、平成二年八月二一日に愛媛県庁を訪れ、環境保全課職員に対し、「城東開発処分場で違法な野焼き行為が行われており、周辺環境を汚染するおそれがあるので、直ちに中止するよう指導せよ。」と抗議してきた。そのため、環境保全課職員が平成二年八月二九日再度城東開発処分場の立入調査をしたところ、城東開発処分場では、依然として産業廃棄物の野焼き及び埋立処分行為が行われていた。そこで、環境保全課職員は、再度溝田部長を県庁に呼び出し、溝田部長に対し、産業廃棄物の野焼き及び埋立処分行為の即時中止を通告するとともに、産業廃棄物の焼却を行う必要があれば、焼却炉による適正処理を行い、燃えがらは管理型処分場へ搬出して処分するよう指導した。

(5) 環境保全課職員は、こうした状況のなか、城東開発の県外産業廃棄物の受入れ相談に対しては、城東開発処分場で違法行為が行われているような状況下では、県外産業廃棄物の受入れなど論外であり、また、大量の県外産業廃棄物の搬入は県民感情にもそぐわないと説明し、計画を思い止まるよう城東開発を指導するとともに、原告に対しても本件許可申請を行わないよう、溝田部長に伝えていた。

(6) ところが、原告は平成二年一一月上旬、有限会社光測量事務所代表取締役の松本光正を申請代理人として、今治中央保健所に本件許可申請書を持参させた。環境保全課職員は、松本光正に対し、現状では県外産業廃棄物の搬入など論外であると重ねて説明し、本件許可申請を思い止まるよう指導したが、松本光正が指導に耳を貸さなかった。そこで、環境保全課職員は、本件許可申請書及びその添付書類の不備を指摘するなどして、原告とも相談して本件許可申請を思い止まるよう重ねて指導したが、松本光正はその都度これを補正し、平成二年一二月二一日今治中央保健所に本件許可申請書(〔証拠略〕)を提出してきたので、やむなく同保健所が同日正式にこれを受理した。

(7) 一方、城東開発も、平成二年一一月三〇日松本光正を申請代理人として、今治中央保健所に、県外産業廃棄物の受入れを前提とした一時保管地での保管行為の追加、焼却炉の設置に伴う中間処分(焼却)、及び収集運搬品目の追加を内容とする産業廃棄物処理業の変更許可申請書を提出し、同保健所は、これについても受理を拒む理由がないため、同日正式に受理した。

(二) 本件許可申請後の是正指導について

〔証拠略〕によると、以下の各事実を認めることができる。

(1) 本件許可申請書の提出後も、愛媛県知事(環境保全課職員)は、違法行為が繰り返されている城東開発処分場に、首都圏からの大量の産業廃棄物を受け入れることを前提とした本件許可申請を認めるわけにはいかないと考え、再度、城東開発及び原告に理解を求め、本件許可申請を取下げるよう指導することとし、両社の申請代理人である松本光正にその旨指導したが、松本光正は、「城東開発の問題が解決するまで、いつまでも待っています。」と答えるばかりであった。そこで、環境保全課職員は、平成三年一月一〇日に城東開発処分場への三回目の立入調査を行ったところ、依然として城東開発処分場では、産業廃棄物の違法な野焼き及び埋立処分行為が行われていた(〔証拠略〕)。

(2) そのため、愛媛県知事(環境保全課職員)は、平成三年一月三〇日再度溝田部長を県庁に呼び出し、環境保全部長名の文書による是正指導を行うとともに、このような状況では県外産業廃棄物の受入れを前提とする変更許可はできないので、城東開発が平成二年一一月三〇日に提出した産業廃棄物処理業変更許可申請書を取下げ、焼却炉の設置を前提とする中間処理(焼却)、及び収集運搬品目の追加だけを内容とする変更許可申請を改めて行い、違法な野焼き等の是正を図るよう指導した。その結果、城東開発は平成三年二月一日、前記産業廃棄物処理業変更許可申請書を持ち帰った。

(3) 環境保全課職員は、本件許可申請についても城東開発が提出していた前記変更許可申請と一体となるものであることを理由に、松本光正に対し、本件許可申請の取下げを促したが、松本光正は、自分の一存では判断できないと言って、取下げはしなかった。他方、原告代表者自身は、本件許可申請がどうなっているのか確認するため、平成三年一月中旬頃愛媛県庁に電話をかけ、電話口に出た環境保全課職員から、城東開発に対する是正指導を行う間、本件許可申請に対する処分は留保している旨の説明を受け、これを容認する旨答えている(〔証拠略〕)。

(4) 環境保全課職員が平成三年三月一四日、城東開発処分場に四回目の立入調査をしたところ、城東開発が性懲りもなく依然として野焼き行為をしていたため、愛媛県知事(環境保全課職員)は、平成三年三月二七日再度溝田部長を県庁に呼び出し、再度城東開発に対し文書による是正指導を行った。城東開発は、平成三年三月末になってようやく、城東開発処分場に大型の焼卸炉を設置したことから、城東開発処分場での野焼き及び埋立処分行為が一応なくなったと認められたのは、環境保全課職員が城東開発処分場に五回目の立入調査を行った、平成三年四月五日になってからのことであった。

(5) なお、城東開発は、平成三年四月二日に、焼却炉の設置に伴う中間処理(焼卸)、及び収集運搬品目の追加を内容とする産業廃棄物処理業変更許可申請書を、改めて愛媛県知事宛に提出するとともに、書類上の整理をつけるため、同月三日に、平成二年一一月三〇日に提出した変更許可申請書の取下書(〔証拠略〕)を提出した。

(三) 考察

(1) 前記(一)(二)の各事実によると、愛媛県知事は、本件許可申請について、最終処分業者である城東開発の産業廃棄物処理に関する違法行為の存在を重視し、城東開発に対する是正指導を行うとともに、原告に対し、城東開発による産業廃棄物の違法処理が行われていることを理由に、本件許可申請の取下げを求め、愛媛県知事によるこれらの行政指導が行われていた結果、本件許可申請に対する許可・不許可の行政処分が留保されていたことが認められる。

原告は、一般に行政庁による許認可実務では、許可申請書の受理は申請の許可を意味する行政慣行が存在し、受理後の事務処理に必要な期間は約一か月であって、それを超えた処分の遅延は違法である旨主張する。しかし、原告が主張するような行政慣行が存在することを認めるに足りる証拠はない上、本件許可申請に際しては、愛媛県知事側(環境保全課職員)から城東開発に対し、県外産業廃棄物の受入れが認められる情勢は厳しい旨が告げられており、かつ、原告代理人の松本光正に対しても、本件許可申請を思いとどまるようにとの指導がされていたのであって、本件許可申請書は許可を前提に受理されたものではない。

(2) そして、本件許可申請は、産業廃棄物の収集・運搬のみをその内容とするものであるが、産業廃棄物処理の流れ全体を考察すれば明らかなように、産業廃棄物の収集・運搬は、通常の貨物運搬とはその性質が異なり、一定の目的地への到着それ自体を目的とするものではなく、目的地到着により手続が完了するという性質のものではない。産業廃棄物の収集・運搬は、その後最終処分場において埋立て等の最終処分がなされることを、当然の前提とするものである。

したがって、産業廃棄物の収集・運搬とその最終処分は、言わば一体となっており、双方切り離すことのできない関係にあると言えるところ、収集・運搬された産業廃棄物が最終処分場で不適正に処理されるならば、付近一体の環境が破壊され、住民の生活及び健康に重大な支障を及ぼすことは明らかである。そして、これらの弊害は、一旦、産業廃棄物が不法に投棄されて環境が破壊されてしまうと、その原状回復が極めて困難であることに照らして、深刻なものがある。

更に、本件許可申請のように、県外で排出された産業廃棄物の県内搬入を予定する場合、県民は直接の利益を得ておらず、負担する必要に乏しい産業廃棄物により、その生活環境が破壊されるおそれがある点において、最終処分場周辺一体の住民は、なお一層このような県外産業廃棄物の搬入には嫌悪感を抱くことになる。

(3) これらの事情、並びに、廃棄物処理法が、廃棄物の適正な収集・運搬・処理等により生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(法一条)、かつ、この目的達成のため、都道府県に対し、当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況を把握し、産業廃棄物の適正な処理が行われるよう、必要な措置を講ずることに努めるよう求めていること(法四条二項)に鑑みると、廃棄物処理に関する許可権限を有する愛媛県知事が、産業廃棄物の収集・運搬のみに関する許可申請がされた場合であっても、それと一体をなす最終処分業者の業務内容についても目を配り、そこに違法行為があった場合には、最終処分業者に対する行政指導を行うとともに、収集・運搬から最終処分までの一連の流れとして、産業廃棄物処理が適正に行われることを目的として、当該最終処分業者に対する指導の効果を見極めるため、収集・運搬に関する許可申請に対する許可・不許可の行政処分を、社会通念上合理的と認められる一定の期間留保することは、前述した法の趣旨に合致するものであって、処分庁としての責務を果たす正当な行為と評価できる。

したがって、本件においても、原告の本件許可申請にかかる収集・運搬事業と一体となっていた城東開発の最終処理業務について、前示のごとき違法行為が繰り返されていた以上、処分庁である愛媛県知事が、産業廃棄物の適正処理を図るため、城東開発に対し是正指導を行う間、本件許可申請に対する許可・不許可の行政処分を留保することは、社会通念上合理的と認められる期間内であれば、原則として許される。

(4) 但し、この場合においても、申請人である原告の地位を不当に長期間不安定にすることは許されず、行政処分の留保は、社会通念上合理的と認められる期間内でなければならないが、本件においては、前示のとおり、原告代理人の松本光正及び原告代表者自身が、城東開発の違法行為の問題が解決するまで、本件許可申請に対する処分が留保されることを容認する態度を示し、かつ、平成三年五月下旬ころまでは、愛媛県知事側に対し、本件許可申請に関する問い合わせをした形跡もないこと(〔証拠略〕)、及び城東開発の違法行為が是正されたと確認されたのは、平成三年四月五日のことである以上、右時点までの本件不作為は違法ではないと認める。

2  平成三年四月六日から七月二日までの本件不作為について

(一) 〔証拠略〕によると、以下の各事実を認めることができる。

(1) 城東開発による産業廃棄物違法処理の問題は、環境保全課職員による是正指導の結果、平成三年四月五日以降一応の解決をみたが、環境保全課職員は、度重なる指導にもかかわらず違法行為を繰り返してきた城東開発の姿勢から見ると、いま暫く監視の必要があると考えた。

(2) しかも、この時期、千葉県や東北各県の外、香川県豊島でも県外産業廃棄物による環境汚染が問題となり、四国圏内においては、平成三年三月に高知県が県外産業廃棄物の県内搬入を原則として禁止する方針を決定し、同年五月一七日に開かれた四国四県の知事会においても、四国四県における県外産業廃棄物の県内搬入原則禁止の方針が打ち出され、同年六月には香川県が高知県と同様の方針を決定し、愛媛県においても同様に、県外産業廃棄物の県内搬入禁止の措置を検討することとなるなど、産業廃棄物の都道府県を越えた広域移動が、全国的に社会問題化していた。

(3) 更に、城東開発処分場は、埋立地からの浸出液の処理施設を持たない安定型処分場であり、松山市民の飲料水の水源である石手川ダムの上流に存することから、そこで産業廃棄物の不適正処理が行われた場合、松山市民の生活環境や公衆衛生に重大な支障を及ぼすおそれがあった。その上、愛媛県知事(環境保全課職員)は、本件許可申請は、実態把握及び許可後の指導が困難な県外業者が、首都圏から大量の産業廃棄物を愛媛県内に搬入する初めてのケースであることから、大量に搬入された産業廃棄物が適正に処理されなかった場合は、県民の生活環境の保全や公衆衛生の向上に重大な影響を及ぼすことは必至であると考えた。

(4) これらの状況に鑑み、愛媛県知事(環境保全課職員)は、本件許可申請については引き続き取下げを求めることになり、原告代理人の松本光正を通じ、原告の理解を求めて本件許可申請の取り下げ指導を続けた。

(二) 考察

以上によると、愛媛県知事は、城東開発の業務姿勢及び県外産業廃棄物の県内搬入をめぐる社会情勢等に鑑みて、本件許可申請については、平成三年四月五日以降も引続き取下げ指導を行う方針を採択し、このため、本件許可申請に対する許可・不許可の行政処分を留保していたことが明らかである。

そこで、まず、愛媛県知事の取下げ指導の正当性について検討するに、城東開発は、環境保全課職員による指導があった後も、野焼き等の違法行為を繰り返し、その違法行為の是正には約九か月もの長期間を要している以上、違法行為が一応解消したと言っても、直ちに城東開発に対し信頼を置くわけにはいかないことは当然であって、城東開発についてはもう暫く監視の必要があると考えた環境保全課職員の認識には、何ら不合理な点はない。そして、前記1の(三)の(2)(3)で考察したとおり、産業廃棄物処理に関する許可権限を有する愛媛県知事が、産業廃棄物の収集・運搬のみに関する許可申請がされた場合であっても、それと一体をなす最終処分業者の業務内容に違法行為があった場合には、最終処分業者に対する行政指導の効果を見極めるため、収集・運搬に関する許可申請に対する許可・不許可の行政処分を、社会通念上合理的と認められる一定の期間、留保することが許されると解すべきである。

しかも、当時、首都圏等の都市部で排出された産業廃棄物が、地方に運搬されて地方で処理されることによる地方の環境汚染等、産業廃棄物の都道府県を越えた広域移動が全国的にも社会問題化し、愛媛県議会でも度々この問題が取り上げられる等して愛媛県民の関心を集め、四国各県においても県外廃棄物の県内搬入原則禁止の方針が打ち出されていたこと、本件許可申請は、実態把握及び許可後の指導が困難な県外業者が、首都圏から大量の産業廃棄物を愛媛県内に搬入する初めてのケースであったところ、城東開発処分場は、埋立地からの浸出液の処理施設を持たない安定型処分場であり、松山市民の飲料水の水源である石手川ダムの上流に存することから、大量に搬入された産業廃棄物が適正に処理されなかった場合は、松山市民の生活環境の保全や公衆衛生の向上に重大な支障を及ぼすおそれがあったこと、更には、地方公共団体には、地方住民の生活環境の保全、公害の防止及び公衆衛生の向上を図る責務がある(地方自治法二条三項七号)ことに照らすと、愛媛県知事が、原告に対し県外産業廃棄物搬入の自粛を求めるため、本件許可申請について、平成三年四月五日以降も引続き取下げ指導を行ったことについては、あながち不当なこととは言えず、取下げ指導を行う間、本件許可申請に対する許可・不許可の行政処分を留保することも、直ちに違法と言うことはできない。

ただし、このような取下げ指導を理由に行政処分を留保することは、相手方が取下げに応じる客観的な可能性があることをその前提とするものであり、かつ、処分庁が相手方に対し粘り強く説得を試みること自体は許されるとしても、相手方が取下げに応じる意思のないことを真撃かつ明確に表明した後になっても、なお申請の取下げを求めて行政処分の留保を継続することは、不当に相手方の地位を不安定にし、徒らに時間の消費を強いるものであって、許されないと言わねばならない。

これを本件についてみるに、原告代理人の松本光正は、前示のように、愛媛県知事の取下げ指導に対し、真撃かつ明確な拒絶の意思を表示することはなかったのであり、今井征夫弁護士から取下げ拒絶の意思を明示した通告書が愛媛県知事に届いたのは、平成三年七月一二日であって(〔証拠略〕)、それまで原告の取下げ拒絶の意思は明確になっていなかったのであるから、右通告書が届くまでの間、愛媛県知事(環境保全課職員)が本件許可申請取下げの可能性があると判断し、取下げ指導を継続していたこともやむを得ない。したがって、平成三年七月一一日までの本件不作為が違法であるとは認められない。

3  平成三年七月一二日以降の本件不作為について

(一) 〔証拠略〕によると、以下の各事実を認めることができる。

(1) 原告代理人の今井征夫弁護士が、平成三年七月一二日愛媛県知事に対し、本件許可申請の取下げには応じられないので、二週間以内に行政処分を行うよう求める催告書(〔証拠略〕)を送付した。そこで、愛媛県知事(環境保全課職員)は、改めて松本光正に対し本件許可申請を取下げるよう求めたところ、松本光正は、自分の一存では決められないので、本件許可申請書を原告に送り返してほしい旨の意向を示した。そこで、愛媛県知事(環境保全課職員)は、平成三年七月一五日今治中央保健所長に指示して、本件許可申請書を原告に返送させた。すると、今井征夫弁護士が、平成三年七月二四日再度愛媛県知事に対し、本件許可申請の取下げには応じられないとして、改めて行政処分を促す旨を記載した催告書(〔証拠略〕)を送付し、返送されてきた本件許可申請書を再度今治中央保健所に送り返した。

(2) そのため、愛媛県知事(環境保全課職員)は、原告に対する本件許可申請の取下げ指導を中断し、本件許可申請の適否に関する実質的審査を開始することとし、環境保全課職員は、平成三年七月二六日今治市所在の阪部海運有限会社に出向き、原告が本件許可申請の際提出していた裸傭船契約書(〔証拠略〕)や、船員名簿(〔証拠略〕)の内容を調査した。その結果、右裸傭船契約は、原告がその乗組員らに対する指揮命令権を有するものではなく、海運会社に産業廃棄物の運搬を全面的に委託するものであることが判明し、廃棄物処理法一四条七項で禁止されている産業廃棄物運搬の第三者への再委託である疑いが強まり、原告は、過去にも同様の方法で、香川県知事から産業廃棄物運搬の許可を受けていたことが分かった(〔証拠略〕)。

(3) そこで、愛媛県知事は、平成三年八月八日付けの環境保全部長名の文書(〔証拠略〕)でもって、今井征夫弁護士に対し、愛媛県の事情(県外産業廃棄物搬入に対する愛媛県民の厳しい意見)を説明するとともに、原告が産業廃棄物の運搬に使用する船舶が、廃棄物処理法施行規則一〇条一号イ所定の「運搬施設」とは認められないことを示して、再度本件許可申請の取下げを依頼した。しかし、今井征夫弁護士からは、平成三年九月一二日愛媛県知事宛に、重ねて本件許可申請の取下げ指導には応じないので、行政処分を求める旨の催告書(〔証拠略〕)が届いた。

(4) ところで、環境保全課職員は、予てより原告の実体に疑問を抱いており、今回の阪部海運有限会社での調査により、原告の資質にも疑問を感じたことから、原告の実体を見極め、場合によっては原告代表者と直接会って、愛媛県の事情を説明して理解を得ようと考えた。そこで、環境保全課職員は平成三年八月二三日、本件許可申請書(〔証拠略〕)に記載されている原告の本社、事務所及び事業場を尋ねたところ、これらの場所には事務所も施設も存在しなかった。環境保全課職員は、本件許可申請書記載の電話番号に電話をかけてみたが、電話に出た相手は会社名すら名乗ることもなく、全く要領を得なかった(〔証拠略〕)。

(5) そのため、愛媛県知事は、平成三年一〇月一五日付けの環境保全部長名の文書(〔証拠略〕)でもって、再度今井征夫弁護士に対し、愛媛県の事情(県外産業廃棄物搬入に対する愛媛県民の厳しい意見)を説明するとともに、本件許可申請の取下げを依頼した。しかし、今井征夫弁護士が、平成三年一一月一五日愛媛県知事に対し、最終催告書(〔証拠略〕)でもって、原告には本件許可申請の取下げ意思は全くなく、早急に行政処分をすることを求める旨、最後通告してきた。

(6) そこで、止むなく愛媛県知事は、平成三年一一月二五日付けの通知書(〔証拠略〕)でもって、本件許可申請については、次の理由により廃棄物処理法一四条二項各号の要件を充足しないと認められるとして、本件不許可処分をした。

<1> 原告は、廃棄物処理法一四条二項一号、同施行規則一〇条一号イ所定の「運搬施設」を有していないと認められる。

<2> 本件許可申請書記載の場所に、原告の事務所及び連絡先ともに存在しないことから、原告が適切に業務の遂行を行い得るとは認められず、廃棄物処理法一四条二項二号、七条二項四号ハに該当すると認められる。

(二) 考察

本件許可申請自体は、平成二年一二月二一日に正式受理されていることに照らすと、愛媛県知事による本件許可申請に対する実質審査が正式受理から、約七か月後に、今井征夫弁護士からの催告書(平成三年七月一一日付け、〔証拠略〕)を受け取って初めて開始されたことは、いささか遅滞の感を拭えない。しかし、【要旨一】本件許可申請をきっかけとして、城東開発による産業廃棄物違法処理の問題が判明し、本件許可申請に関しては、まず、この城東開発に対する是正指導が急務であって、平成三年四月初旬までは専らそれに時間が費やされ、その後も平成三年七月一一日までは、愛媛県知事(環境保全課職員)による正当な取り下げ指導が行われていたことに照らすと、愛媛県知事(環境保全課職員)が平成三年七月下旬まで実質調査に着手しなかったことが、直ちに違法となるとまでは認められない。

しかし、前記(一)の各事実に照らすと、愛媛県知事が本件不許可処分において不許可の理由とした事由については、環境保全課職員による二度の出張調査が終了した平成三年八月下旬の時点において、すべて愛媛県知事(環境保全課職員)に判明していたことが明らかである。したがって、愛媛県知事は、遅くとも、平成三年九月初めの時点では、本件許可申請に対し如何なる行政処分を下すべきかの判断をしうる状態となっていたと認められ、しかも、その時点では、今井征夫弁護士から愛媛県知事宛の二度にわたる催告書(〔証拠略〕)でもって、原告には、本件許可申請を取下げる意思が全くなく、早急に本件許可申請に対する行政処分を求める旨が通知されていたのであり、真摯かつ明確に愛媛県知事の行政指導に従う意思のないことを表明していたのであるから、その後もなお行政指導を理由に、本件許可申請に対する処分を留保するのは違法である。もはや、この時点においては、愛媛県知事は本件許可申請に対する処分を早急に行うべきであり、その後も、愛媛県知事が本件許可申請の取下げの説得指導を行うことを根拠に、行政処分を留保することは、その合理的根拠に欠ける違法なものと言わねばならない。

したがって、愛媛県知事が本件許可申請に対する行政処分の判断が可能となっていたと認められる平成三年九月初めの時点から、通常事務処理に要する期間を考慮しても、愛媛県知事は、遅くとも平成三年九月一〇日までには、本件不許可処分を行うべきだったと認められ、右期日後の本件不作為は合理的理由なく行政処分を引き延ばしたものであって、違法と認めざるを得ない。

三  争点3(一)(原告主張の損害)について

以上、判示したとおり、本件許可申請については、平成三年九月一〇日から一一月二四日までの本件不作為が違法となるので、次に、原告が主張するその間の賃借料等の支出について、被告が賠償すべき性質の損害と言えるか否かを検討する。

そもそも、ある違法行為について、当該違法行為の加害者に対する損害賠償が認められるのは、そこに当該違法行為がなかったならば被らなかったはずの損失、又は得られたはずの利益が存在するからであるが、この損害賠償は、正義及び公平の理念を基礎として、法が違法行為の加害者に対し、被害者への損害賠償を命じることにより、被害者に対し一定の法的保護を与えようとするものである。そして、損害賠償の制度が、このように正義・公平の理念に基づく以上、そこにおいて賠償される損失又は得べかりし利益は、当然、法によりそのような保護を受けるにふさわしいものでなければならない。

これを本件についてみるに、原告が主張する損害は、愛媛県への産業廃棄物運搬に必要な鈴繁埠頭の賃借料等であるところ、〔証拠略〕によると、原告がこの賃借料を香川県への産業廃棄物運搬が終了した平成三年三月一日以後も長期に渡って支払っていたのは、本件許可申請が許可となったあかつきには、そのような支出程度は、愛媛県への産業廃棄物の収集・運搬による収益により回収できると見込んでいたためであり、結局、原告が本件において損害と主張する支出は、本件許可申請にかかる収集・運搬事業を行って利益を得るための支出であったことが明らかである。

ところが、原告が計画していた本件許可申請にかかる運搬事業の実態は、愛媛県知事に対し、虚偽の船員名簿を提出して裸傭船契約が存するかのごとく装うという不正手段を用いるとともに、それにより許可を得たならば、過去に香川県への産業廃棄物運搬で行っていた際と同様に、廃棄物処理法が禁止する産業廃棄物運搬の第三者への再委託に当たる疑いが濃い運搬方法を利用するというものであり、これは、何ら産業廃棄物の処理に対する責任ある業務態度とは言えず、原告は、単に、愛媛県知事を欺罔して本件許可申請に対する許可処分を騙取し、それにより不法な利益を得ようと画策していただけであることは、前示の事情より明らかである。

【要旨二】そして、このような不法な行為により利益を挙げようとすること自体が、法の保護に値しないことは論を待たず、前述したように、原告の賃借料等の支出は、このような不法利益を得ることを目的としてなされた以上、結果としてそれが回収できなくなったとしても、それはいわば自業自得であって、法の保護のもとに損害として填補されるに値しない、すなわち法の保護に値しない支出と言える。

以上により、原告の主張する損害は法の保護に値しないと言うべく、原告が本件不作為により、法律上保護の対象となる権利又は法的利益を侵害されたものとは認められないので、被告にはその損害賠償責任はない。

第四  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 髙橋正 橋本佳多子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例